Step 2 : サプリメントを使用してコルチゾールを抑制する |
さて、ここでチャレンジとなるのは、体に必要なコルチゾールの抗炎症効果を完全に抑制してしまうことなく、コルチゾールのレベルをコントロールすることだ。一つの方法は、抗コルチゾールサプリメントを朝の起床直後と就寝前に摂取することである。これらの時間帯はコルチゾールレベルが高いと思われるためだ。コルチゾール抑制サプリメントを就寝前に摂る理由は、睡眠中過剰なコルチゾールが産生されるのを防ぐためである。タイムリリース(持続放出)剤は長時間持続してコルチゾールを抑制するため、これには不適当だ。目的はコルチゾールレベルの上昇を抑制することであり、正常な生理学的レベルを低下させるためではない。前述したように、抗炎症その他の効果のため、少量は必要だからである。
以下は、ストレス(エクササイズ)によって誘発されるコルチゾールを防ぐために、私がお勧めするサプリメントである。
フォスファチジルセリン(PS) : このリン脂質は主に認知機能向上効果のために知られているが、コルチゾール抑制作用もあると思われる。最近の研究では、800mgのフォスファチジルセリンを2分割して経口投与したところ、強度のウェイトトレーニングに伴うコルチゾールの上昇を抑制することが明らかにされた。(11)
実際同研究では、PS投与群は筋肉痛も少なかった。モンテレオーネによる初期の研究でも、この結果が確認されている。 コルチゾールのレベルを低下させると、テストステロン対コルチゾール比が高まることがあり、アナボリック効果に関与する可能性がある。PSはコルチゾールのレベルが上昇した時にのみこれを低下させるらしく、正常値以下に低下させることはない。
アセチルL-カルニチン : 基本的にこれはアセチル化されたL-カルニチンのエステルである。 このサプリメントは、強度のレジスタンストレーニング中とその後に起こるテストステロンの低下を防ぐ可能性がある。
ストレス反応を軽減する効果があるようだ。
L-グルタミン : これは筋肉組織中、最も豊富な遊離アミノ酸である。(12) タンパク質合成に非常に重要な役割を持ち、ウェイトトレーニングを行うアスリートには大切な物質なのだ。グルタミンのレベルが、オーバートレーニングやオーバーリーチングを示す良い指標であることを示唆する研究も幾つかある。(12)
言い替えれば、オーバートレーニングのアスリートは一般的にグルタミンのレベルが低く、コルチゾールのレベルが高い。ある研究では、グルタミンがコルチゾール誘発による筋肉収縮タンパクの分解を直接防止することが実際に明らかにされている。(13)
グルタミンの有益効果は、タンパク質合成の促進、GHレベルの上昇(これはコルチゾールのカタボリック効果の幾つかを中和する)、強力な細胞肥大効果(筋肉細胞にアナボリックな環境を造る)の他、筋肉中のタンパク質回転率の調整にも一部関わっている。経口グルタミン
サプリメントはオーバートレーニングの症状の幾つかを軽減し、小腸への燃料供給を促し、抗炎症機能を向上させる働きがあると考えられている。また免疫機能を向上させることも明らかにされている。
とにかく趣旨はお分り頂けただろう。 グルタミンはウェイトトレーニング アスリートには欠かせない栄養素なのだ。
ビタミンC : このビタミンは主にその抗酸化作用で知られているが、抗コルチゾール効果もあると考えられている。 「ビタミンCがコルチゾールとテストステロン対コルチゾール比に及ぼす影響」と題したストーンによる研究では、17人のジュニア
ウェイトリフターに於いてコルチゾールの低下が示されている。同研究ではまた、ビタミンC投与群(1日1g)ではテストステロン対コルチゾール比が20%以上改善した。このようなコルチゾールの低下は筋肉と結合組織の肥大及びトレーニングからの早期回復に繋がるものである。
またビタミンCは風邪やインフルエンザの感染率を30%も低下させる(14)ためと、コラーゲン合成ノ役立つ可能性があるため、強度なウェイトトレーニングのプログラムを行う時はビタミンCを余分に摂るのが賢明であろう。
亜鉛: このミネラルは、テストステロン合成やステロイドホルモン産生など、体内の300以上の酵素反応に不可欠な共同因子である。ウェイトトレーニングにおいて、亜鉛を充分摂っているか否かでトレーニング効果の大小が決まってしまうくらいだ。
ビタミンA: このビタミンは、しばしば健康的な皮膚の機能の維持に使われているが、サプシ博士によれば、コルチゾールレベルを抑制する効果もあるそうだ。これは博士が1997年のコルチゾール・抗コルチゾール会議で発表したアブストラクトで示唆されている。(8)
ギンコビロバ: このハーブは、血液の循環を高めて脳への酸素供給を増大し、知的集中力を高める、主に認知機能に対する優れた効果のために利用されているが、1997年のコルチゾール・抗コルチゾール会議で発表されたアブストラクトによると、それに加えてコルチゾールレベルを低下させる効果もあるようだ。(15)
この研究で示されたギンコビロバの抗ストレス及び神経保護作用は、グルココルチコイドの生合成に対する効果によるものであった。
DHEA : 副腎のこの天然ホルモンは30歳頃から減少し始めるが、パワフルな抗コルチゾール効果があると思われる。 1997年の会議で発表された多くのアブストラクトは、コルチゾールレベルを低下させるDHEAの役割について検討したものであった。DHEAは脂溶性であるため、血液脳関門を通過することが可能で、認知機能にも何らかの効果がある。 |
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厳しいトレーニング プログラムを行うアスリートにとって、コルチゾールの抑制は回復のプロセスに不可欠であろう。実際オーバートレーニング症候の兆候の一つは、コルチゾールの高値なのである。
コルチゾールレベルの調節(完全に抑制するのではない)は、ウェイトトレーナーがエクササイズから完全に回復して最大限の効果を得る(誰でもそうしたいものだ)ための不可欠な要因である。
これは将来も徹底的に研究されるテーマであろう。 コルチゾールに対するサプリメント対策の研究によって、ウェイトトレーナーがワークアウトから最大の効果を得ることが出来、早期回復とそのプロセスの改善が期待される。ところで、コルチゾールのレベルを抑制すれば怪力ヘラクレスに変身出来ると考える前に、コルチゾールは大きく複雑なパズルの只の1片にすぎないことを覚えておきたい。筋肉増強の真の可能性は、適切なトレーニング、栄養、サプリメント摂取などを組み合わせて始めて極めることが出来るのである。
と言っても、コルチゾールに対する対策を採用するのは悪い事ではない。特にカロリー制限のダイエット期には必要だ。今後ウェイトトレーニングのプログラムを実行中に疲労感を覚えたり、気だるい感じがしたり、筋肉痛が異常に長期間続いてその原因がわからない時は、コルチゾールレベルを調べてみることだ。
案外その答えが見つかるかも知れない。
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参考文献: |
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Triol (AET) in Hypercortisolemic Patients (Las Vegas, NV: Conference on Cortisol
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