性ホルモンの事になると、前立腺とDHTの関係ほど一般消費者に誤解されているものはない。 前立腺肥大ばかりか前立腺癌までもDHTのせいにしてしまう様な不正確で単純過ぎる態度が殆どの人々の間で横行しているようだ。
言うまでもなく現実はもっと複雑だ。 健康な前立腺の成長 (発育成長)、BPH(良性前立腺肥大)、そして癌性前立腺肥大では顕著な相違がある事を理解する必要がある。
前立腺成長の最初の段階は発育成長の段階で、思春期と精巣からのアンドロゲン分泌に関係するものだ。 この期間に前立腺は、思春期前の休眠状態から、正常なサイズの健康で機能的な成人の前ァ腺へと成長する。青年から中年にかけて体内のアンドロゲンは常に高レベルであるにもかかわらず、前立腺に変化はない。
但し体内のアンドロゲンが遮断されれば成人の前立腺は縮小してしまう。 これは去勢だけでなく、5-ARの遮断によってももたらされる (DHTが前立腺における活性アンドロゲンであることを思い出して頂きたい)。
年をとるとしばしば第二の成長期が訪れる。 この成長はBPH(良性前立腺肥大)と見なされ、発育成長期とは全く異なるホルモン環境内で起こる。エストロゲン/アンドロゲン比の上昇は高齢の男性に良く見られる状態なのだが、これがBPHの発現に高い相関を持つという証拠が次々と挙げられている。
実験的研究では、飽和したA環を持つアンドロゲン(DHTに関連)は前立腺肥大の初期条件を誘発し得ない事を示した。 これらの化合物は芳香化不能(エストロゲンに変換出来ない)なのだ。
一方、テストステロンやアンドロステンジオンなどの芳香化するアンドロゲンはサルにおいて前立腺の肥大修飾を誘発することがあるが、これらの効果はアロマターゼ阻害物質を加えると逆転する。
どうやらBPHの誘発因子はエストロゲンのようであるが、多分もっと正確に言えば、最低許容量のアンドロゲンの存在下でのエストロゲンということだろう。
こんなことは読者の多くにとって初めて耳にする事ではないと思うが、DHTを実際にBPHの治療に使えることを知っている人は少ないだろう。 どういう風に作用するのかって?
基本的には、体内のテストステロンを置換してエストロゲンを減少させる効果を持つ。上記で少し説明した通り、DHTは下垂体にシグナルを送ってゴナドトロピンの産生を減少させる強力なアンドロゲンなのだ。
ゴナドトロピンが減少するとテストステロンの生産も減少し、それがエストロゲンのレベルを減少させる。 その結果ホルモン環境に変化が生じて(高DHT、低エストロゲン)BPHを後退させるようだ。
この論理を臨床に適用した結果は、米国特許5,648,350 「アンドロゲン療法におけるジヒドロテストステロンの使用」に記述されている。 以下がその結果である。 |